だしの香りが、料理をやさしく、そして満たす朝。

日記

だしの香りが、料理をやさしく、そして満たす朝。

朝の厨房に立つと、まだ外は薄暗くて静かなんです。
お湯を張った鍋に昆布を入れて、火をつける。
ふわぁっと湯気が立ち上がると、「あぁ、今日も始まるな」と思います。

料理の世界に入った頃、教わったのは「最初の鍋をおろそかにするな」という言葉でした。
一日のはじまりに取るだしは、その日一日の味の“基礎”になる。
どんな料理を作る日でも、まずそこから始まります。

京割烹の技法を取り入れた“だし”を、今も毎朝の鍋で。
特別なことではありません。どこの料理屋さんでも、きっと同じです。
でも、そこを丁寧に続けているかどうかで、料理の輪郭が変わってくる気がします。
だしを取ることは、手間でもなく、仕事でもなく、もう“呼吸”みたいなものなんです。
続けている理由を聞かれたら、「それが一番落ち着くからです」と答えると思います。

味つけよりも大切なもの──香りで整える

料理って、味つけよりも“だし”で決まるんですよ。
塩や醤油の前に、まず香りとうま味で整える。
そうすると、やさしい味になる。
でもそのやさしさの奥に、ちゃんと“食べ応え”が生まれるんです。

しっかりとしただしがあれば、揚げ物も煮物も重たくなくて、心地よく満足できる。
お年寄りにも、お子さまにも食べやすい。
「お腹も心もちょうどいい」──そんな料理ができたときが、いちばん嬉しい瞬間です。

特別ではない、でも大切なこと

特別なこだわりがあるわけではありません。
ただ、目の前の鍋の湯気を見ていると、
「今日もこの一杯のだしで、誰かが安心してくれるかもしれない」
そんな気持ちになるんです。
鍋の底から静かに泡が上がる音を聞きながら、
今日の段取りを頭の中で組み立てる。
香りは目に見えないけれど、不思議と人の心をやわらげます。
だからこそ、きれいに整えたくなる。
それを“こだわり”と呼ばれるなら、
たぶん、それは「手を抜かない癖」みたいなものです。

だしの香りが作る、料理の空気と重み

湯気の向こうに並ぶ八色のおかず。
箸を入れるとすっとほどけて、だしの香りがふわりと広がる。
“だし”って、目に見えないけれど、お料理の「空気」と「重み」を作るものだと思います。
毎朝の鍋から立ちのぼる香りは、いつの間にか、店の空気になりました。

京割烹の技法を取り入れた“だし”を、今も毎朝の鍋で。
特別なことをしているわけではありません。
ただ、当たり前のことを、変わらず続けているだけです。
当たり前を積み重ねた先に、ようやく“やなぎさわやの味”がある。
今日も、静かに、鍋に火を入れています。

今日も、誰かの食卓がやわらかく、そして満たされますように。
──静かな湯気の向こうで、そんなことを思いながら。


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